Casa de NOVA in Minnesota

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Mar. 27

我が家が毎年タックス・リターンの申告を依頼している会計事務所は
ベトナム人の夫婦が経営するオフィスである。
いつもは奥さんのRosallieが私たちの担当だが、
今回は水害による損失控除があり、面倒な部分も多かったので、
ご主人のTomが申告書類を作成してくれた。
そのTomが話してくれたこと…
彼は北ベトナムの出身だそうだ。
南北ベトナムの戦争が激化する中、少年時代を北で過ごした。
当時、北に住む人たちは、政府により洗脳に近い統制を敷かれていた。
「北に住むあなたたちは幸せです。
茶碗1杯のご飯が食べられます。
南に住む人たちは、気の毒なことにほとんど食べるものがなく、
どんどん餓死していっています」
そう聞かされたそうだ。
それでも食べ盛りだったTomは毎日ひもじい思いをして過ごしていた。
あるとき、南ベトナムを訪れる機会があったTomは
しばらくショックから立ち直れなかった。
南は北とは比べ物にならないくらいに貧しいと聞いていた。
それなのに、みな好きなものを好きなだけ食べている。
電気が通っている。
家の中の天井には扇風機が回っている。
みな楽しそうに笑っている。
今まで自分たちが聞かされていた話は何だったんだろうか。
政府の話をそのまま信じていた自分たちは何だったんだろうか。
若き日のTomはそこで現実を知ることになった。
ある日突然、彼の父親が投獄される。
父親はベトナムの大学で教授をしていた。
そのとき、「民主主義」とは何かを講義していた。
そして大学の学生が警察当局に通報したことにより、
彼の父親は政治犯として投獄されることになった。
それから2年間、父親は獄中で暮らした。
その際に「私は反政府行動を起こしました」と証文を書けば、
釈放してやると言われたのだが、
父親は断じてその申し出には従わなかった。
むしろ「私は無実である」と毎日、毎日、2年間、書き続けてきたのであった。
そして1975年、北ベトナムの勝利によって父親は釈放される。
しかし、このままこの国で暮らしていたら未来はないと確信していた父親は
一家を引き連れて同年、アメリカに亡命したのである。
それから30年…
北はまったく変わらないとTomは言う。
ごく一部の政府関係者だけがどんどん裕福になっていき、
多くの国民は貧しいままで、今も政府の言葉をそのまま信じて生きている。
「あれから30年経っても何一つ変わっていないんですよ」
怒りをも含んだ彼の言葉に、頷くしかなかった。
亡命してから30年、一度も祖国の土を踏んでいないという。
彼はおそらくベトナム人としての誇りを持ち、
ベトナムという国を心底愛しているんだと思った。
でも、帰らない、帰れない…
もちろん、彼はアメリカの大学を卒業し、
いくつかの資格も取得し、立派に自分の会社を立ち上げているし、
成功者であることは間違いないだろう。
でも、彼のアイデンティティは間違いなくベトナム。
国を負われてアメリカに逃れたのではない。
国を捨ててアメリカで生き直したTomとその家族。
私は、日本人の私は、どうなんだろうか…
すっかり夕闇に包まれたカリフォルニアのフリーウェイを走りながら
考えた「国」のことだった。
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Commented by まこと at 2006-03-28 18:44 x
そうやって人の意見を聞いて考えるって、とても日本人らしいのではないでしょうか?
日本って、結構何に対しても『心』をつけますよね。
僕意外と好きなんです、こういうの。
大事にしたい日本人らしさです。
あ、ちょっとズレたコメントですね。
Commented by geechan at 2006-03-29 00:19
日本の近隣諸国でも見られる事態…。
結局は人間のエゴイズムから発したもので、それが「国」という大きな組織に派生してしまって悲劇をたくさん生んでしまってる…。彼は知識があり情報源もあったからたまたま救われたのだろうけど、世界中に数え切れないぐらいたくさんある「悲劇」だよね。
豊かで平和な国で、のほほんと生きている私たちは、その国に生まれることができたことに「感謝」するとともに、世界平和を祈るしかない…と思います。
(ものすごく非力だけど…)
Commented by susie at 2006-03-29 09:44 x
NOVAさん、共産主義とは、社会が進化して資本主義よりも良い体制(皆が平等)とされたものだったと思いますが、結果はどこでもそうはなっていませんね。全体主義という方があたっています。ベトナムの北が変わっていないというのにはびっくりしました。南ではどうなっているのかも疑問です。
私もちょっとズレたコメントになりました。
Commented by maltsmama3 at 2006-03-29 13:50
私自身が私のアイデンティティとはなんぞや、と考えることがあります。
日本はアイデンティティというモノが失われてしまったような……。
なのにナショナリズムは強調されていくような……。
私には、今の日本ではこの二つが混同されているような気がしてなりませんのです。

Commented by チェリー at 2006-03-29 14:05 x
ロスでは不法滞在者の大規模なデモもやっているし、テロの後遺症から移民法や移民受け入れに対して厳しくなっているのは事実だけれど、そのベトナム人ファミリーのような暮らしを築けるのもアメリカなんですよね。
国際社会でアメリカって叩かれることも多いけれど、この点では移民の国だけあってチャンスはつかめる国なのだなぁと改めて感じました。
...私のコメントもズレてる....
Commented by lanova at 2006-03-29 14:07
★まこっちゃん_このときはクマちゃんも一緒だったんで、彼もおそらくいろんなことを感じていたんだと思います。ベトナム戦争に行ってた人ですから…アメリカってね、純粋なアメリカ人はネイティブインディアンだけなのね。だから一人一人が「国」に対する意識がとても強いの。たとえアメリカ生まれのアメリカ育ちでも、先祖をたどるとほとんどが移民なんだよね。そこでどういう形で移民してきたかっていうことなんだと思う。きっと日本で暮らしていたら、「国」ってこんな風には意識しなかったかもしれないって思ってます。
Commented by lanova at 2006-03-29 14:12
★geechan_ちょっと前までは日本も随分辛い時期があったと思うのね。私たちは「戦争を知らない子どもたち」だけど、知らないからそれでいいじゃん!というわけには行かないと思うの。今もどこかで戦火に苦しむ人たちがいて、このアメリカもある意味戦時中で、多くの兵士が外地に行き、命を落としています。でも、こうして暮らしているとそんなことさえ意識の外に行ってしまっているのね。日本は戦後の復興は早かったし、驚くほどの変貌を見せたけど、北ベトナムが30年経っても変わらないというのは、本当にショックでした。
Commented by lanova at 2006-03-29 14:18
★susieさん_昨年読んだ「スワン」でまさにsusieさんのコメントと同じことを思いました。共産主義、コミュニストはある意味で多くの人たちの理想でも会ったはずです。日本でもコミューンが次々にできた時代もありました。でもTomが言うにはそれは共産主義という言葉を蓑にした洗脳に変わらないのだと…国家統制は治める側にとっては人民支配そのものです。私もベトナムのことはよくわかりませんでした。なので今日、職場でベトナムの本を少し読んでみたんです。でもやはりここはアメリカです。どうしても視点はアメリカとの関わりに重点が置かれていました。もっともっと知らなければいけないことが世の中にはいっぱいありますね。
Commented by lanova at 2006-03-29 14:28
★maltsさん_そうだよね。「出自」と「国家」とはまったく別のものだものね。もちろん「私が私であること」に「国」は大きな関わりを持つだろうし、そこから始まるのだろうけど…社会の勉強かなにかで「家系図」というのは学習するけど、もっと身近なものとして存在してもいいような気がするの。こちらではファミリーツリーといってどこの家庭でも子どもが書いたものがあったりするのね。こっちで暮らし始めてからおもしろいなと感じたのは、日本はオリンピックとかスポーツの大会になると俄然「ニッポン」風が吹くんだよね。ところがここではそういうときより日常の中の方がそれぞれの国を意識することが多いの。それだけ多国籍の国だということかもしれません。
Commented by lanova at 2006-03-29 14:38
★チェリーさん_そうそう!Tomたちが亡命したのがこのアメリカだったということ。そこなんですよ。あのベトナム戦争でアメリカは南を支援して北と戦い、そして唯一アメリカが敗戦したのがこのベトナム戦争だったわけですよね。北は南というよりアメリカと戦っていたわけですよ。そしてその北の人たちが終戦と同時に亡命先として選んだのがアメリカ…クマちゃんはさすがに複雑な表情をしていました。昨日、今日とヒスパニックの高校生たちの大規模なWalk outが行われました。ウチの高校も多くががヒスパニックの生徒なので、このWalk outに参加した子もいたようです。でもね、不法移民にも正当な権利をというのは、ちょっと違うんじゃないかなと…不法移民にならなければいけないのはなぜか、まずはそこじゃないかなって思うのは私だけでしょうか。
Commented by 一心万宝 at 2006-03-29 15:24 x
政治、国家の身勝手さゆえに、人民は搾取され、だまされ、がまんさせられる
けれど、生まれた国、祖国。忘れることはでけへん。じゃあ、どういう国家ならって関係ないんかも
ともに育った人、育んでくれた山野。それが懐かしい
だからこそ、なおさら
醜い国家、政治にはあいそがつきるのかもなぁ
Commented by dabadabax at 2006-03-29 16:15 x
なんだかんだとあっても平和な今の日本に暮らしていると、そういう辛い経験をして来た人たちの話を聞くことはできても、現実にはそれがどういうことかは実感できません。日本でも60年前は貧しくて恐ろしい思想統制の時代があったのに、、、
Tomさんのお父さんはえらいですね。激しい拷問とかもあったでしょうに、そうして信念を曲げなかったのですから。本当に辛い体験だったでしょう。そして家族を守るためにアメリカに渡って、きっと多くの助けを得ながら成功されたんですね。でも苦しめられたという傷は一生消えるものではないでしょう。人にもなかなか話せないものかもしれません。
今の北朝鮮や中国、はたまた中東やアフリカの国々にも世界のことを知らされていない人は多いでしょう。こうしてネットを使って自由に世界の人々とコミュニケーションができる楽しさを、いつの日にか味わえるときがきっと来ると思います。いつまでもそういう恐怖政治は続かないでしょう。アメリカに暮らしていらしたら、いやでも民族という概念が身近になりますよね。でも多彩な文化に折り合いをつけながら、暮らしていける知恵はすごいなあと思います。
Commented by lanova at 2006-03-30 10:04
★一心さん_そうなんだよね。たとえそこで辛い思いをしたことしか記憶になかったとしても、それでも心の底では大切な場所として存在する、それが祖国なんだよね。愛国心とかというのとはちょっと違うと思うのね。祖国を捨てても決して忘れられないんじゃないでしょうか。
Commented by lanova at 2006-03-30 10:14
★dabadabaさん_「多彩な文化に折り合いをつけながら、暮らしていける知恵」、まさにその通りです。これだけさまざまな国の人たちが同じ土壌で暮らしていると、それ「みんな違ってみんないい」ではなくて、「みんな違って当たり前」なんですね。それにアメリカという国が建国220年という若い国であることも大いに関係しているのでしょう。長い歴史を持たないということは、新しいものをどんどん受け入れることでもあり、それを自分たちのエネルギーにも換えていけるんだと思います。最近はそのエネルギーのぶつかり合いが、抗争につながったりもしていますが…
Commented by k_soulman at 2006-03-31 03:16 x
難しい話ですが・・・生まれ育った環境、教えられた知識・モラルetcがその人の人格や考え方を形成しているとして考えると、その世界しか知らない、そしてそれ以外の知識がなければそれらが正義であり、すべてなのです。

その中から、ごく少数の誰かがその現実への矛盾を感じ、また外界からの情報や知識を得て、疑問や不満が生れて、それを広め改革を目指したり、そこから逃亡を図ったりします。

どこの国でも、長い歴史の中で、同じ様なことをいつも繰り返し続けてきた。

NOVAさん達のように、海外で生活をしている日本人だから感じる国家意識や望郷の念、それは自国で生活をしているとあまり自覚しないけど、それはある意味、本来皆が持っている感情や思いなのでしょう。

特に日本とアメリカの違いは、国家や個人が持つエネルギーや国家運営システムも異なるけど、経済が支配する世の中で、アメリカの持つ軍事的影響力が世界を動かしていることは間違いないでしょう。

それぞれ個人の思想や理念、モラルだけでは立ち行けない現実と戦いながら、我々は生きていくしかなのでしょう・・・それが人間の性であれば。
Commented by lanova at 2006-04-01 15:40
★soulmanさん_そうですね、個人による情報収集が制限されていればなおさらでしょうし、されていなくても往々にして限られた情報で暮らしている人は少なくないと思います。
それは決して過去のことではなく、現在も世界のあちこちで亡命は行われていますし、不法入国だって行われています。ベトナムのボートピープルはよく知られていますよね。でもボートピープルという言葉が知られているだけなのかもしれません。
そして今は北朝鮮から亡命する人たちのことがたびたび報道されています。
ただ異国で暮らすという選択の種類はさまざまです。どういう選択であっても「自分の国」はずっと変わらないと思います。
<アメリカの持つ軍事的影響力が世界を動かしている>そうでしょうね。アメリカが世界を支配していると考えるリーダーたちは少なくありません。ただアメリカ政府とアメリカ国民は決して同じではないと、ここで暮らしてから思うようになりました。当たり前のことだけど日本政府と日本人が同じではないように…
「私は平和に暮らしてて良かった」と安堵するのではなく、個人の視点だけでないベクトルを持ち続けていたいと思った日でした。
by lanova | 2006-03-27 21:45 | Logbook | Trackback | Comments(16)